魚をおろせないのに寿司屋を始める人はいませんが、シカやイノシシの調理方法を知らないまま、ジビエを始めるかた、多くいらっしゃるのが現状です。
そして全国各地で何十回と聞いたセリフ。
「うちの街には、ジビエを食べる習慣がないから」
「作ってもジビエを食べたい人がいなかった」
このセリフを聞くたびに、「勿体無いなあ〜」と思います。
「食べたい人がいない」のは、「食べたくなるジビエのお店がないから」
「ジビエを食べる習慣がない」のは、「習慣がないからこそ、大きなチャンスがある」
ですよね。
「ジビエという言葉すら浸透していない」四国中央市へ18年ぶりにUターンした和の料理人坂上さんが開業したのは、「和のジビエ専門店」。
開業後1年が過ぎて、人気は高まる一方の「坂ダイニング」の坂上さんへインタビューしてきました。
–ジビエビジネスアカデミー(G-B-A)を受講されたきっかけは?
地元四国中央市へUターンし、独立開業する事になりまして、その中の一品にジビエ料理を取り入れてみようと思ったのがきっかけでした。
地元に戻る前は、大阪や京都の高級料亭や寿司屋で料理人として18年間勤めていました。地元へ戻った後、開業までの準備期間が約半年ありましたので、その間、四国各地の生産者さんを周り、仕入先の情報を収集しながらネットワークを広げていました。
当初は魚をメインとした割烹料理店を予定していまして、その中の一品として「猪鍋」を考えていたくらいでした。
魚の調理や目利きに関する技術や知識は誰にも負けない自信がありましたが、肉料理の経験や知識は皆無でした。さらに、ジビエとなると未知の世界の食材であり、当時は自分がジビエ料理専門で開業する事になるとは微塵も想像していませんでした。
シシ鍋用のイノシシ肉を仕入れるため、業者さんを回っていたとき、加工業者さんから、「ジビエを取り扱うなら」と、西村さんが主宰する「ジビエビジネスアカデミー」を紹介されました。開業まで時間のゆとりがあったことと西村さんのHPをみて「ジビエ」というキーワードが引っかかったので、「この機会にジビエを学んでみよう」と軽い気持ちで門を叩いたのがきっかけです。
–G—B—Aの講座では、どのようなことが体験できましたか?
まず初めに、西村さんのジビエの専門的かつ実践的な知識と経験の豊富さに圧倒されました。私は和食の道を極めてきたと自負しておりますが、和食のプロがいるように、ジビエにはジビエの専門家がいることを改めて知りました。
調理の世界は実力主義のため、皿洗いなど下積みから始まりますが、労働ではなく、ビジネスとして講座を受講したことで、初日からたくさんの肉にふれながら、調理のテクニックを学ぶことができ、時間の有効活用になりました。
シカやイノシシ肉は、養殖されている牛や豚と違い、冷凍ブロックでの流通がほとんどで、肉には筋や皮が付いているため、下処理が必要です。
初日は解凍されたシカやイノシシの各部位に触りながら、肉の目利きの方法を学びながら、シカやイノシシ肉についている筋や皮の引き方を繰り返し練習しました。初めは筋を綺麗に引くことが出来ず、大変苦労しましたが、丁寧に指導してもらえたおかげで、コツが飲み込め、綺麗な肉処理ができるようになりました。
また休憩時間や隙間時間には、西村さんが世界各国で調査に行って得られたヨーロッパと日本のジビエ肉の違いや日本の肉の優位性などについて熱く語ってもらえたのも、非常に有益な時間になりました。また西村さんの話は、本やインターネットから得たものではなく、実際にご自身で利益を上げ成功させるまでのプロセスを踏んでらっしゃるので、言葉の信憑性と重みが違いました。
調理技術だけでなく、座学としてジビエ論を学べたことは、自分の中の知識となり、お客様との会話やメディアの取材等でも活かせています。
集中講座では、あらためて「ジビエ肉の美味しさ」の理由を座学と調理から学べたほか、西村さんが経営されていたジビエ料理専門店で大人気だった「メニューのレシピ」のほか、ロスを出さず利益を上げるためのメニューの組み立て方、「基礎」や「配慮点」」を知ることで、料理の幅が広がりました。
講義内では、自分で考えた料理を他の受講生に食べてもらい、感想を述べあいながら、ブラッシュアップをし、受講生のための研修も兼ねて開かれたレストランで、お客様に食べていただく機会もありました。
お客様の直接の反応はもちろん、GBAで私自身が実際に調理し食べた結果、ジビエの無限の可能性を感じまして、当初の瀬戸内の魚を中心とした懐石料理店ではなく、「和ジビエ専門店」として開業する事になりました。
–受講後、お店をオープンさせたそうですが、どのようなお店ですか?
愛媛県四国中央市に「和ジビエと日本酒 坂ダイ.ニング」として昨年9月よりオープンしています。和のしつらえの空間の中で、和食とジビエを融合させた料理をお箸で食べる。これまでの経験を活かしたお店になっています。
ジビエ肉へのこだわりはもちろん、野菜や調味料なども可能な限りオーガニックで上質なものを選んでいます。そして和の命である「出汁」には自信があります。
和の基本にジビエ、野菜を合わせた心もお腹も満足してもらえるそんなお店を目指していまして、私のお店から「ジビエは美味しい!」と発信していきたいと思っています。
— 四国中央市で飲食店の成功は難しいと聞きますが、開業当初からお客様はいらっしゃいましたか?
はい、四国中央市で飲食の成功は難しいと聞いていましたが、開業当初から賑わっています。珍しいだけでなく、一度ご来店いただいたお客様がジビエの美味しさに驚いて、また別のお客様を連れてご来店くださるという繰り返しで、おかげさまでいつも予約帳はご予約のお名前で埋まっています。
松山市から車でわざわざご来店くださるお客様もいて、他では食べることのできない和ジビエ専門店として開業して本当によかったと思っています。
–お客様の反応は?
「こんなに美味しいなんて」と驚かれるお客様が一番多いです。
開店当初からリピーターとなって日常使いしてくださるお客様が多くいることも、営業を続ける上での自信に繋がっています。またお祝いの席で利用いただくほか、健康に気を配るスポーツマンや美にこだわりのある女性の方のご来店も多いです。
チェーン店の居酒屋と比較すると、割高にはなりますが、上質なもの美味しいものを食べたいというお客様のニーズに応えられていると思います。また、お客様と会話しながら、料理を提供できるようカウンター席がありますが、そこでもジビエビジネスアカデミーで教わった「ジビエ学」がとても役に立っています。
–お店で提供するジビエ料理はどのようなものが?
大三島で捕獲されたイノシシは、みかんを主食としているため、柑橘の香りがする日本でもトップクラスの品質を誇るお肉ですが、そのイノシシの旨さを味わえる「陶板焼きハンバーグ」が人気です。
実はこれ、G—B—Aで習得したテクニックのひとつなのです。上質のイノシシ肉の切り落としをオリジナルな方法でミンチ肉として加工、調理していますが、イノシシ肉の旨さがそのまま伝わり、看板メニューとなっています。
–ジビエを扱ってみて感じていることは?
西村さんがいう通り、ジビエは、四国の宝だと感じています。またビジネスの面からも、「和ジビエ専門店」だからこそ、開店当初からたくさんのお客様がきてくださったと感じています。
イノシシやシカなどはたまたま数が増えすぎて、害獣だと言われていますが、本来は天然の貴重なお肉です。でもその価値に気づいていない人が多いこと、またシカやイノシシの良さを生かした調理法を習得している人が少ないことから、肉が消費されない現状があると思います。
調理の基本を習得している料理人が山の恵みとして正しく料理し、美味しい料理として提供するころで、シカやイノシシに価値がつくと感じています。
また日本のシカやイノシシは素材の味を生かす和の調理法にもとてもあいます。これからは私にしかできない「和ジビエ」を日本全国に広げていくことが目標のひとつです。
–今でも定期的にNook‘s Kitchenにも通っているそうですが?
毎月第一土日に、Nook‘s Kitchenでは、テイクアウトのお店をしていますので、日曜日限定の出店にはなるのですが、そこで、また新たに開発したメニューを販売して、さらにブラシュアップを試みています。また、ジビエ料理やジビエが取り巻く環境、経営しているお店の近況なども含め西村さんと意見交換をするなど、卒業した今でもお世話になっています。
–最後に、受講を検討されている方へメッセージを。
ジビエに関するビジネスを起こしたい人へは、ジビエビジネスアカデミーをお勧めします。
西村さんがこの10年間で切り拓いたジビエの世界と価値、そして世界での経験や世界各国のジビエネタなど、直接話を聞くことで世界が広がります。辛口で本音しか言わないため、厳しく感じることもありますが、親身になり適切なアドバイスをくださいます。
ジビエは、ビジネスとしてだけでなく、地域を取り巻く環境問題の改善にも役に立ち、そして社会貢献にも繋がる事業です。
ジビエビジネスアカデミーで学んだことで、新しい世界が広がり、たくさんのお客様に喜んでいただけ、またお店もすぐに軌道に乗せることができました。これからも和の技術を生かして、季節の野菜とジビエの新たな組み合わせや調理法で、たくさんのお客様に喜んでいただき、また日本各地でジビエ事業を始める人たちの成功モデルとなれるようこれからも頑張りたいです。
=1期生プロフィール=
坂上 大輔さん
料理人歴18年。関西の有名料亭で修行し、寿司店で店長として活躍。地元愛媛は大三島のイノシシに注目し、ジビエビジネスアカデミー受講。
2018年9月8日「和ジビエと日本酒 坂ダイ.ニング」オープン
ジビエと和食を組み合わせたオリジナル料理を生み出し、リピーター客続出、予約必須の人気店となっている。
=お店情報=
和ジビエと日本酒 坂ダイ.ニング
住所/愛媛県四国中央市三島宮川2-1-16
電話/0896-77-5855
定休日/日曜、不定休
営業時間/18:00〜22:00
駐車場/有4台
https://www.facebook.com/sakadining/
(インタビュー/廣澤靖子)