ミシュラン星獲得店も採用! 「料理人が求めるジビエ肉」を学んだ。

 ジビエビジネスアカデミー修了生インタビュー 

                          岡山県西粟倉村・エーゼロ株式会社 自然資本事業部 道上 慶一さん

 

農林水産業の6次産業化に向けた研究・実践に取り組むベンチャー「エーゼロ株式会社」。人や自然の本来の価値を引き出し、地域経済を醸すことを目指す同社では、事業の一つとして西粟倉村近郊で獲れた鹿肉の解体・加工・販売に取り組んでいます。

 

担当社員である道上慶一さんは、長年勤めた大手通販会社を辞めてジビエの世界に飛び込んだ経歴の持ち主です。ジビエビジネスアカデミーを受講することになった経緯や、受講後の変化についてお話を伺いました。

 

 

 Q.まずは、エーゼロ株式会社 自然資本事業部の事業内容について教えてください。

 

私たちは、人や自然の本来の価値を引き出し、地域経済の循環を下支えしていきたいというビジョンを掲げています。

そのために、スモールビジネスの創発や地域の関係人口創出、情報発信、地域資源の活用などを、地域に寄り添って展開していくことで、地域からさまざまなアイデアが育ち、豊かな土壌が広がっていくことを目指しています。

 

現在取り組んでいる事業としては、地元産の木くずをボイラーの燃料として活用し、その熱源でニホンウナギの養殖に取り組む「森のウナギ」事業や、西粟倉村とその周辺地域の猟師さんから鹿を買い取り、解体したお肉を東京などの飲食店に卸したり一般消費者向けの商品にして販売する「森のジビエ」事業などがあります。

 

 

Q.道上さんがジビエビジネスアカデミーを受講することになった経緯を教えてください。

 

「森のジビエ」事業では、主にレストランのシェフに売り込みをしなくてはいけません。しかし、実際に私が仕事をしていくなかで、シェフ達とのコミュニケーションがうまくいっていないように感じていました。

 

たとえ相手が料理の専門家でこちらは卸業者という立ち位置でも、やはり卸業者側もある程度は肉の特性に詳しくなければ、そもそもシェフとの会話が成り立ちません。

また、「ジビエ」という日本で普及し始めたばかりの食材だからこそ、シェフ自身も知らないことがたくさんあり、こちらも積極的に肉の使い方を提案していくことが必要なんじゃないかと考えるようになりました。

 

「もっとジビエの知識を得たい」といろいろ調べていくなかで、偶然Facebookでジビエビジネスアカデミーの情報を目にし、受講することにしました。

 

 

Q.実際に受講するなかで印象に残ったことはありましたか?

 

事前に弊社が取り扱っているお肉を送り、受講初日には実際に売り込みのときに使っている分厚い営業資料を持参していったのですが、「お肉のここがダメ。資料のここがダメ」とズバリ言われてしまい、最初は面食らいましたね(笑) でも、その指摘はすべて的を得ていました。

鋭い指摘は愛情に裏打ちされたもので、西村さんは本当に親身になって向き合ってくださっているんだとすぐに分かりました。

 

受講中はジビエの基礎知識を学んだり、営業資料のブラッシュアップなども行いましたが、同時に「ジビエ料理を作る」という実践もたくさん行いました。

卸業者や加工業者にそうした実践が必要なのか、と思う方もいるかもしれませんが、私にとってはその実践がとても良かったと感じています。

 

私自身はこの仕事に就く以前は通販会社に勤めていまして、料理も趣味として楽しむ程度でしたので、シェフの気持ちやリアルな厨房の状況などをイメージしきれていない部分もありました。

今回、週末のレストラン営業で西村さんと一緒に料理をしましたが、元ジビエレストランのオーナーシェフというだけあって、スピードがとても速いんです。さすがプロの料理人だなと感じました。

それと同時に「世のシェフはこのスピード感のなかで食材を扱うんだ」ということも分かりました。

 

その実体験をしたからこそ、理解できることがありました。

例えば、西村さんから「背ロース肉をパッキングするときは、肉を曲げない方が良い」というアドバイスをいただきました。背ロース肉は長さが30センチ以上あり、弊社ではそれまで折り曲げてパッキングしていたんですが、開封すると肉にクセが付いてしまっていたんです。西村さんは「そのクセを料理人は嫌がる」と指摘しました。

確かに、自分が実際に料理をしてみると、クセの付いた肉は調理がしづらいんですよね。厨房のあのスピード感のなかで、調理しづらい肉は単純に扱いたくないと感じます。

シェフが扱いやすいパッキングの方法も教わることができましたので、すぐに改めて商品に反映させました。

 

  

 

 

Q.食べやすくカットして味付けをした鹿肉は、一般消費者向けの商品としても展開されているそうですが、こちらも受講をきっかけに誕生したのですか?

 

はい、そうです。西村さんから味付けをした鹿肉の商品化を勧められ、開発しました。

 

鹿肉の中でも最もやわらかく高級な部位とされる背ロースを一口大の約5mm程度にスライスし、天然塩・オリーブオイル・ガーリックに漬け込んだ【ヘルシーステーキ】、モモ肉を2mm程度にスライスし、自家製ダレに漬け込んだ【あまから醤油】、西粟倉のお米から作った自家製塩こうじにモモ肉を漬け込んだ【塩こうじ漬け】の3種で展開しています。

どれもパックから出して焼いたり揚げたりするだけで、簡単にジビエを楽しめる商品です。

 

こだわったのは、濃い味付けにするのではく、鹿肉の持ち味を生かす味加減にすることです。

西粟倉は、豊かな森と源流域の澄んだ水に恵まれた環境があり、しかも、小さな村であるがゆえに猟師さんが獲って血抜きから弊社の解体所まで搬入される時間が短く、鮮度を保ったまますばやく精肉に加工できるメリットがあります。

そのおかげで西粟倉の鹿肉は「クリアな味がする」と評されることが多いんです。今回の商品は、その味の魅力を最大限に引き出したいと思いました。

 

 

商品化するとクラウドファンディングの応援購入やネット通販などを通して多くの方からご注文をいただくことができ、「こんなにおいしいと思わなかった!」と大変好評をいただいております。

Q.ジビエの知識だけでなく、「飲食店が求めるもの」も学べたんですね。他にも受講後に営業現場で実践されていることはありますか?

 

飲食店に売り込みを行う場合、これまでは営業資料をお渡しして「ご希望があればサンプルをお送りします」という方法を取っていたんですが、西村さんから「店のアイドルタイム(休憩時間)を狙って肉を持っていき、その場(店の厨房)で調理させてもらい、食べてもらいなさい」とアドバイスを受けました。

 

最初はそんな図々しいことをして良いのかという気持ちもあったのですが、「実際に食べてもらわないと、お肉の良さが分からないから」という西村さんの言葉に納得しまして、アドバイスに沿って営業をしてみたところ、シェフから「おいしいね!」とお褒めいただき、お店で使っていただけるようになりました。

 

また、西村さんから「飲食店は常に人手不足で、一次処理をして販売してあげると喜ばれる」というアドバイスもしていただき、鹿肉を扱いやすいようスジ取りやスライスなどをした上で、下味付きで出荷をはじめたところ、東京や大阪のミシュラン星を獲得したレストランでも採用していただけるようになりました。

 

受講してからの“変化”というものはすごくたくさんあって、受講していなかったらどうなっていたんだろうと思うくらいです。

 

一次処理をするにしても、受講する以前は鹿肉のスジの取り方すら知らなかったので、ジビエの基本から学べたことも自分のなかでは大きな収穫でした。

Q.本当にどの商品もおいしそうですし、簡単な調理でジビエが楽しめるというのも魅力的ですね。

 

事業展開の広がりからもジビエビジネスアカデミーで多くの発見や収穫があったことがうかがえます。同じ卸業者さんや加工業者さんにも受講をお勧めしたいですか?

はい、卸業、加工業、そして解体業の方にもお勧めしたいです。

 

ジビエビジネスアカデミーでは、私たちの売り込み先であるシェフや料理人がどういうことを求めているのか?という視点をくれますし、扱うお肉も西村さんが目利きをした最高の状態のものなので、その肉を見て・触れて・調理をして、実際に食べることができるというのも良い経験になると思います。

 

また、普段の仕事とは異なるレストラン営業の実践もありますが、それも楽しかったですね。お客さんとスタッフの境がなく、フレンドリーな雰囲気が流れていて素敵だなと思いました。

 

 

滞在中は部屋に帰ればプライベートがあって好きなこともできますし、西村さんの拠点ではワーケイションで来日する外国人の受け入れも行っているので国際交流もできました。受講で過ごした5日間は楽しくてあっという間でしたね。

 

Q.では最後に、これからの目標を教えてください。

 

西粟倉やその近郊地域のジビエをもっともっと広め、一般の方にも気軽に食べていただけること。そして、これまで見過ごされてきた自然の価値を取り出し、人と自然をつないだ「未来の里山」をつくりだすことが目標です。

 

ジビエはまだ家庭の食卓にのるような一般的な食材ではありませんので道のりは遠いかもしれませんが、「たまにはジビエを食べようか?」と選択肢に挙がるような、魅力的なジビエ商品を作っていきたいです。

 

 

受講終了後も西村さんからアドバイスや情報をいただいていますので、これからもいろいろと学ばせていただこうと思っています。